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【事例あり】IPOの労務・勤怠管理で注意すべき4つのポイント(IPOセミナーレポート)

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2021-04-22

企業が上場するためには「上場企業としての適格性」が厳しく問われる証券取引所の審査をクリアする必要があります。

IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)を目指す企業に必要な労務管理体制について、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応・企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行う寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 寺島 有紀 先生にお話を伺いました。

全4回に渡りお送りします。

寺島先生プロフィール
寺島先生プロフィール

    ラクロー:最近IPOを目指す企業様からラクローへお問い合わせを頂くことが多いのですが、我々もあまり知識がないため寺島先生に教えていただきたいと思っております。よろしくお願いします。

    寺島先生:よろしくお願いします。私は楽天出身ということもあってか、結構ベンチャー企業の創業の時からお手伝いすることも多く、ベンチャー企業のサポートをしているとIPOを果たしたところもありますし、みなさんIPOを目指す!という企業は増えています。スタートアップ企業、ベンチャー企業のまさにN-3~Nー2期ぐらいの企業を多くサポートしています。

    ラクロー:労務系のIPOの基準を満たす取り組みはどれくらいの期間をかけてやってるんですか?

    寺島先生:まずN-3くらいから上場を意識して監査法人を探して、大体このくらいの時から労務をなんとなくきちんとやり始めようと思って社労士に相談を始めたりしますが、N-2からN-1の1年間できれいに労務を整えていくイメージです。1年は運用実績が必要なので最後の1年間は整えられた労務体制を実際に運用で回していないといけないことになります。

    ラクロー:一番直すのが大変なところ、労力かかるところはどこですか?

    寺島先生:まさに勤怠です。未払い賃金など最後の最後まで勤怠管理ができていないところが多く苦労している企業が多いです。

    企業ステージに合わせた労働管理の必要性

    寺島先生:IPOにおける労務管理ってここ最近ホットトピックになっていて、5~6年前まではあまり労務に関しては厳しく見られていなかったように思います。

    ところが最近かなり厳しく労務管理はみられていて、証券会社も東証もその影響を受けた監査法人も「労務は必ず労務のデューデリジェンス受けてください!」といったことを指導されている企業も多いようです。

    電通の過労死事件などが関係していたり、やはり未払い賃金や長時間労働で36協定の違反など、一度コンプライアンス違反をしてしまうと、特に大企業などはメディアでかなり叩かれたり、レピュテーションリスクに関わるということもあり、「労務管理についてはしっかりやっていきなさいよ」という流れが来ているように感じます。

    企業のステージと労働法関連の義務
    企業のステージと労働法関連の義務

    寺島先生:一方で企業ステージと労務関連の義務の関係ですが、ベンチャー企業は急成長で大きくなっていくという特徴があると思いますが、上図にもあるように、労働法は、「労働者が増えるほど、やらなきゃいけないこと」が増えていくという傾向があります。

    企業のステージと労務トラブル
    企業のステージと労務トラブル

    寺島先生:10名未満の従業員人数の時は、みな知人等の創業メンバーで構成されていることも多く、仮に労働基準法が守れてなかったとしても、それが労務トラブルにまでつながるということは少ないかもしれませんが、企業フェーズ的に「全く知らない人を採用する」というフェーズはやってきます。

    その時初めて「36協定どうなってますか」とか「未払い賃金があるのではないですか」等の指摘を従業員から受けたりするケースもあるのではないかと考えます。

    そこから、「いよいよまずいな、ちゃんと労務やっていこう」と意識が変わり、勤怠管理システムの導入などもきちんと整備をするという企業が多いように考えます。

    ベンチャー企業の場合、一度成長フェーズに入ると加速度的に企業規模が大きくなっていくことも多く、労務管理を含め内部管理体制全体が間に合ってないところは少なくありません。

    未払金とみなされた具体的な事例

    <事例1>

    上場準備上のトラブル 実例①

    上場準備上のトラブル 実例①

    寺島先生:こちらの事例は19時以降残業する場合に自動的に勤怠ソフトで1時間を労働時間から控除するというような設定をしていた企業のケースです。

    勤怠システム上は自動的に1時間を控除していたとしても、従業員にヒアリングをかけると「おにぎり片手にごはんを食べながら普通に労働していました」ということになれば、会社が勝手に勤怠システム上1時間労働時間から控除するといったことはできません。

    そのため、退職者を含めて自動的に1時間差し引いていたものを戻し、精算するということを求められました。

    もしかしたら本当に1時間休憩していた人もいたでしょう。そういう方も含めて1時間は取得していなかったとしてみなし未払い賃金を精算しよう、となったわけですが、もはや最初からこのようなずさんな勤怠管理をせず、適切に勤怠管理をしていた方がコストはかからなかったのではと思います。


    <事例2>

    上場準備上のトラブル 実例②

    上場準備上のトラブル 実例②

    寺島先生:これもよくあるケースですが、固定残業代を入れている場合です。固定残業代というのは「あらかじめ40時間分働いたものとみなす」というような形で前もって割増賃金を払っておく手当のことですが、この固定残業代は適当に運用してしまっている企業も多いです。一番適当なものだと「固定残業代を払っているから残業代は一切支給しない」といったことをしている企業です。これはおかしいですよね、無限に固定残業代が入れられるわけではありません。この固定残業代は、「残業時間40時間分として○○円支払う」等と労働条件通知書に必ず明確にしておかないと有効にならないのです。

    それを理解しておらず、なんちゃって残業代みたいな事をやってしまうと、固定時間外手当自体が無効と判断され、過去に遡って精算を求められるケースもあります。

    また名ばかり監督者の問題もあります。労働基準法上残業代をつけなくていい管理監督者という名目を乱用して、時間管理の自由・裁量もない、経営にも密接に関わっていない方を管理監督者にしてしまっていると、「自分は名ばかり管理職だったから残業代を支払ってください」といった請求を起こされるケースもあります。


    <事例3>

    上場準備上のトラブル 実例③

    上場準備上のトラブル 実例③

    寺島先生:最後の事例はそもそも勤怠管理を行ってきていなかったという例です。上場準備に入るまで、勤怠管理はきちんとやってきていなかったという企業も少なくありませんが、勤怠管理をしていないということは、会社として従業員が何時間働いていたのかが分からないわけです。

    このような無勤怠期間がある場合、上場準備上は、「調査して必ず精算してください」と言われます。

    そのため勤怠管理をやってなかった期間について、従業員から当時の時間外労働の時間をヒアリングしたり、現在の時間外労働の状況をみて、「現在40時間くらいやってるから大体過去も40時間してただろう」のような形で推測して精算するようなケースも多いです。

    こちらもきちんと勤怠管理を行っていたら、本来払わなくてよかったかもしれないものまで支払うことになっている可能性はあります。

    上場時に絶対見られる4つの主要ポイントとは

    上場を見据えるベンチャーが留意したい主要4ポイント
    上場を見据えるベンチャーが留意したい主要4ポイント

    寺島先生:上場の際にはまず監査法人契約があり、証券会社のレビューを経て東証の審査に進んでいきますが絶対に見られる論点が4つあります。

    1点目がいわゆる賃金帳簿、出勤簿、労使協定、規程類が整備されているかです。外形的にきちんと整っているかというところが一番です。

    2点目はそこまで多くありませんが、社会保険・労働保険の加入漏れです。例えば試用期間中は社会保険に加入させないというような運用している会社がたまにありますが、このような場合には遡って加入させてくださいということになります。

    3点目が一番重要で、これも勤怠管理と雇用管理とつながっていますが、未払賃金です。証券会社などに聞かれることのほとんどすべてがこの3点目に直結することになります。

    4点目は労働法にきちんと対応しているかどうかです。労働法はとても法改正が多いのでそういったものにしっかりと対応できているかというものが見られます。


    <続きは以下からお読みください>

    参考:寺島戦略社会保険労務士事務所HP