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【社労士執筆】年休取得義務の年5日を確実に取得するためのポイントを解説!

  • 労務知識
2025-06-16

年5日の年休取得義務の概要

2019年4月1日から、労働基準法が改正され、すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇(以下、年休)が付与される労働者に対して、年休のうち年5日については、企業が時季を指定して取得させることが義務付けられました。これは、働き方改革の一環として、労働者の心身のリフレッシュを図り、健康増進や生産性向上につなげることを目的としています。

この義務化により、「年休を付与すれば終わり」ではなく、「年5日は確実に取得させる」という企業側の責任が明確になりました。義務を果たさない場合には、労働基準法違反として罰則の対象となる可能性があります。

しかし、「具体的に誰が対象になるのか?」「どのように取得させれば良いのか?」「どのような手続きが必要なのか?」といった疑問をお持ちの企業様も多いのではないでしょうか。

そこで、年休の年5日取得義務について、その対象者から企業が取るべき具体的な対応策も含めて解説します。


1.年休の対象者は

年休は、正社員や契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず、「労働基準法上の労働者」であれば発生する権利です。年休が発生するための要件は以下の2つです。

  1. 雇い入れの日から6ヶ月継続勤務していること
  2. その期間の全労働日の8割以上を出勤したこと

これらの要件を満たした労働者に対して、勤続年数に応じた日数の年休が付与されます。勤続年数が長くなるにつれて付与される日数も増えていきます。

なお、法律通りの運用の場合、年休は原則として入社半年後に10日付与されますが、週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の労働者については、所定労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります(これを比例付与といいます)。 具体的には、以下の図のとおりです。

原則

”付与日数”

比例付与

”比例付与日数”

2.年5日の年休取得義務が発生するのは誰か

「年休が付与されるすべての労働者が、年5日の取得義務の対象となるわけではありません。年5日の取得義務の対象となるのは、年10日以上の年休が付与される労働者です。 つまり、年休の付与日数が9日以下の労働者については、年5日を取得させる義務は発生しません。

具体的には、上表の赤く囲っているところの年休が付与される方が対象となります。


3.いつからいつまでに年休を5日取らないといけないか

年5日の年休を取得させる期間は、年休が付与された日(基準日)から1年以内です

例えば、2025年4月1日に年休が10日付与された労働者の場合、2025年4月1日から2026年3月31日までの1年間に、5日を取得させる必要があります。

この年休が付与される日(基準日)は、個々の労働者の雇い入れ日によって異なりますが、企業によっては労務管理上の便宜から、全労働者の基準日を特定の日に統一(例えば4月1日や1月1日など)している場合があります。このような場合は、その統一された基準日から1年以内に5日を取得させる必要があります。

この1年という期間内に、対象となる労働者が自らの申出などにより既に5日以上の年休を取得している場合は、企業が改めて時季指定をする必要はありません。企業が時季指定をする義務があるのは、対象労働者が1年間に5日取得できていない場合に限られます。


年5日の年休をどのように取得してもらうか

年5日の年休取得義務を果たすための方法には、①労働者の申請に応じて取得する方法、②企業の指定による方法、③計画年休による方法、の3つが考えられます。企業はこれらの方法を適切に組み合わせ、対象となる労働者に年5日の年休を取得させる必要があります。

1.労働者の申請に応じて取得する方法

これは、労働者が自身の希望する時季に年休を取得する、労働基準法39条5項に基づく本来の年休の取得方法です。労働者には年休を請求する権利があり、企業は労働者から年休取得の申請があった場合、原則としてこれを拒否することはできません

ただし、労働者が請求した時季に年休を与えることが、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、企業は他の時季に変更してもらうよう求めること(時季変更権の行使)が認められています。この「事業の正常な運営を妨げる場合」は厳格に解釈され、単に人手が足りないといった理由だけでは認められにくい点に注意が必要です。代替要員を確保する努力など、企業側の配慮が求められます。

年5日の取得義務の対象となる労働者が、この方法によって、基準日から1年以内に5日以上の年休を取得した場合、企業は時季指定の義務を果たす必要はありません。


2.企業の指定により取得する方法

労働者が基準日から1年以内に5日以上の年休を取得していない場合、企業は労働者の意見を聴取した上で、取得時季を指定して年休を取得させなければなりません(労働基準法39条7項)。これが企業の「時季指定義務」です。

企業が時季指定できるのは、対象労働者が5日取得するのに不足している日数分だけです。例えば、基準日から9ヶ月経過した時点でまだ3日しか年休を取得していない労働者がいる場合、企業はこの労働者に対して残りの2日について取得時季を指定することができます。既に5日以上取得している労働者に対して、企業が一方的に時季指定することはできません。

時季指定を行う際には、必ず労働者の意見を聴取しなければなりません。また、その意見を尊重するよう努めなければならないとされています一方的な通知ではなく、面談等を通じて労働者の希望を聞き取り、可能な限りそれを踏まえた上で時季を指定するよう努める必要があります。

いつの時点で時季指定を行うかは法律で定められていませんが、基準日から1年間の期間満了間際になって慌てて指定するのではなく、計画的に、例えば基準日から半年経過時や9ヶ月経過時などに、未取得日数が多い労働者に対して時季指定の意向確認や意見聴取を行うのが望ましいと考えます。


3.計画年休により取得する方法

計画年休とは、労使協定(労働組合がある場合は労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定)を締結することにより、年休を与える時季に関する定めをすることで、年休の取得日をあらかじめ計画的に割り振る制度のことをいいます(労働基準法39条6項)。

この制度を導入した場合、企業は労使協定で定めた方法により、特定の日に労働者に年休を取得させることができます。計画年休制度の対象とできる年休日数は、労働者に付与された年休のうち、5日を超える部分です

計画年休には以下のとおりいくつかの方法があります。

a.一斉付与

事業場全体または班・グループごとに、特定の日にまとめて年休を取得させる方法(例:GWやお盆期間、年末年始に企業全体で一斉に休みとする)。

b.交代制付与

班・グループごとに時期を分けて年休を取得させる方法(例:製造ラインごとに異なる週に夏期休暇を取得する)。

c.個人別付与

労使協定に基づき、あらかじめ個人ごとに年休取得計画表を作成し、それに従って取得させる方法。

計画年休を利用することで、企業は計画的に年休取得率を高めることができ、労働者も計画的に休暇を取得しやすくなるというメリットがあります。


年5日の年休取得義務で企業側に必要な手続き

年5日の年休取得義務を適切に履行するため、企業側でいくつかの手続きを行う必要があります。

1.年休管理簿の作成と保管

企業は、年次有給休暇管理簿を作成し、労働者ごとに、年休を与えた時季、日数及び基準日を記録しなければならないとされています(労働基準法施行規則24条の7)。この年休管理簿は、労働者ごとに作成し、年休を与えた期間(基準日から1年間)中及び当該期間の満了後5年間(当分の間は3年間)保存しなければなりません。

なお、年休管理簿には、「基準日」「取得日数」「取得時季」を記載する必要があります。

年休管理簿は、手書きや表計算ソフトで管理することも可能であり、労働者数が若干名である場合はそれで問題ないことも多いですが、人数が増えてくると作成に手間がかかり、間違いが生じてしまうこともよくあります。そのため、労務管理システムで対応することも一案です。


2.就業規則の変更

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法89条1号)であるため、企業が年休の時季指定を行う場合や、計画年休を実施する場合には、その旨を就業規則に記載する必要があります。


年5日の年休取得義務を取得してもらうための取り組み例

年5日の年休取得義務は、単なる法規制への対応ではなく、企業の労働環境改善や従業員のエンゲージメント向上にもつながる取り組みです。ここでは、年5日取得を確実にしつつ、より良い職場環境づくりに繋げていくための具体的な取り組み例を3つご紹介します。


1.年休取得の促進と管理の徹底

まず考えられるのが、労働者自身が進んで年休を取得しやすい雰囲気づくりと、取得状況の正確な管理です。

【具体的な取り組み例】

  • 社内ポスターやメール、社内報などを通じて、年休取得の重要性や取得状況の確認方法などを定期的に周知する。
  • 各部署の管理職に対し、部下の年休取得状況を把握し、計画的な取得を促すよう研修や指導を行う。
  • 労務担当部署が、基準日から一定期間(例:9ヶ月など)経過した時点で、5日取得できていない対象者をリストアップし、該当者とその上司に取得促進の個別アラートを送付する。
  • 労務管理システムを導入し、従業員自身が年休残日数や取得義務日数を確認できるようにしたり、システム上で取得促進のアラートを自動的に送信したりする機能を活用する。

このような取り組みを行うことで、労働者が自分自身の年休付与日数や取得状況を意識するようになり、計画的な取得につながりやすくなります。また、管理職が部下の状況を把握し、声かけを行うことで、取得を躊躇していた従業員も安心して取得できるようになるかと存じます。この取り組みを効果的かつ継続的に行えるようにするためには、システムの活用がお勧めです。


2.計画年休の有効活用による取得促進

計画年休は、企業主導で年休取得日を設定できるため、年5日取得義務を確実に果たす上で非常に有効な手段です。

【具体的な取り組み例】

  • 企業指定の連続休暇日を設定
    GWやお盆、年末年始などに、既存の休日と組み合わせて数日間の計画年休による連続休暇を設定し、長期休暇を取得しやすくする。
  • 「リフレッシュ休暇」としての取得促進
    勤続年数に応じて、特定の期間内に連続した年休(例えば3日〜5日)を取得することを推奨し、計画年休制度を活用してその一部または全部を指定する。
  • 個人別計画年休
    年度初めなどに、従業員自身に年間で5日以上の年休取得計画(いつ、何日取得するか)を立ててもらい、その計画の一部を労使協定に基づき計画年休として指定することで、計画的な取得を後押しする。

全従業員または特定のグループが同じ時期に休むことで、業務の調整がしやすくなり、「自分だけ休みにくい」といった心理的なハードルが下がります。また、長期の連続休暇を取得することで、心身のリフレッシュ効果が高まり、その後の業務へのモチベーション向上や生産性向上にもつながるものと考えます。


3.休暇を取得しやすい企業文化の醸成と管理職の率先垂範

制度やシステムだけでは、年休取得が進まないこともあります。そのため、日頃からの企業文化や、管理職の姿勢が非常に重要になるものと考えます。

【具体的な取り組み例】

  • 経営層や管理職が積極的に年休を取得する姿を見せる
    経営層が積極的に休暇を取得したり(労働者ではない場合は年休等の概念はありませんが)、上層部である管理職の方々が率先して年休を取得することで、「休むことは悪いことではない」「むしろ推奨されていることだ」というメッセージを従業員に伝える。
  • 年休取得理由を問わない雰囲気づくり
    プライベートな理由で年休を取得することに対し、詮索したり否定的な態度を取ったりしない。労働者の心身のリフレッシュという年休本来の目的に沿った取得を尊重する。
  • 休暇中の業務連絡に関するルールの設定
    年休取得者への業務連絡を原則禁止する、緊急時を除きメールの返信を求めない、といったルールを設け、休暇中に仕事を気にせず休める環境を作る。
  • 業務の属人化を解消し、誰でも休暇を取りやすい体制を作る
    マニュアル整備や情報共有ツールの活用などを進め、特定の担当者がいないと業務が回らない状況を改善する。

このような取り組みを行うことで、従業員が心理的な負担なく、安心して年休を取得できるようになるのではないかと考えます。特に管理職が率先して休むことで、チーム全体の年休取得率の向上につながるケースが多く見られます。

年5日の年休取得は法律上義務付けられたものであることから、「対応しなければならないから対応する」というスタンスになりがちかと思います。

しかし、これらのような取り組みを通じて年5日以上の年休を取得してもらうことにより、単に法律上の義務を果たすだけではなく、生産性向上や離職率低下にもつなげることができるものと考えます。

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