所定休日と法定休日とは?
休日と休暇の違い
所定休日と法定休日の違いを理解するために、まずは「休日」と「休暇」の違いについて整理します。「休日」とは、労働契約上あらかじめ労働義務のない日とされている日です。具体的には、労働条件通知書に記載する「休日」がこれに該当します。
これに対して「休暇」とは、労働義務のある日について、一定の事由の発生等に基づいて一定の手続きを行うことにより、その労働義務が免除される日をいいます。具体例として、年次有給休暇・慶弔休暇・子の看護休暇・介護休暇などがこれに該当します。
休日は割増賃金を算定する際の1か月平均所定労働時間に影響が出るのに対し、休暇は1か月平均所定労働時間には影響しません。このように休日と休暇の違いは、割増賃金の算定にも影響を与えることになることから、実務上重要なものとなります。
所定休日とは
休日は、「所定休日」と「法定休日」に分かれます。このうち「所定休日」とは、法定休日以外の休日をいいます。
法定休日とは
「法定休日」とは、法律で定められている休日のことをいいます。具体的には、法律上、労働者に対して、週1日の休日(または4週4日の休日)を与えなければならないとされており、これが「法定休日」となります。
法定休日の特定
「所定休日」と「法定休日」では、それぞれの日に労働した場合の割増賃金の計算方法に違いが生じます。そのため、この区分も重要です。法律には、具体的にどの休日が「法定休日」になるかについては記載がありません。
なお、以下の通達により週の起算日が就業規則によって特定されていない場合は、日曜日が起算日となります。
「なお、一週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。」昭63年1月1日基発第一号、婦発第一号
また、厚生労働省における質疑応答において、
「法定休日が特定されていない場合で、暦週(日~土)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合は、当該暦週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となる。」厚生労働省「改正労働基準法に係る質疑応答」(平成21年10月5日)A10
とされていることから 、「法定休日」を就業規則等により特定していない場合には、これに沿った対応を行うことになると考えます。なお、上記厚生労働省における質疑応答では4週4日の変形休日制についても記載がありますがここでは省略といたします。
とはいえ、いつが「法定休日」になるのか特定されていないと、割増賃金の計算をどうするか迷ってしまうおそれがあります。そのため、「法定休日」はあらかじめ会社の就業規則に定めておくことをお勧めいたします。
具体的に日曜日を法定休日とするといった決め方や、週の起算日を決めておき、その週のうち1日でも休めればその日を法定休日とするという決め方も可能です。後者の方が経営コスト的にはメリットがあるかもしれません。
所定休日や法定休日の割増賃金について
所定休日に労働した場合の割増賃金
「所定休日」に労働した場合の割増賃金は、所定労働日の時間外労働と同様の扱いとなります。すなわち、1日8時間超・週40時間超の労働について、割増賃金の支払いが必要となります。
また、その際の割増率は2割5分(法定時間外労働が60時間を超える場合、その超える時間については5割)となります。具体的な計算方法については、以下の記事内「ケース2:土曜日に勤務した場合」を参照ください。
法定休日に労働した場合の割増賃金
「法定休日」に労働した場合は、その労働時間について、3割5分の割増率を用いた割増賃金の支払いが必要になります。この割増率の違い(割増賃金の計算方法の違い)が、「所定休日」と「法定休日」の大きな違いとなります。
振替休日と代休
実務上、本来休日であった日に出勤しなければならない事情が生じて出勤した場合、代わりに他の日をお休みにする…というケースがあるかと思います。このような休日の振り替えには2種類あります。
1つは、あらかじめ休日と定められていた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とする「振替休日」です。もう1つは、休日労働した後に、代わりの休日を設定する「代休」です。
「振替休日」は、休日をあらかじめ振り替えるものであることから、休日自体を振り替えることになります。すなわち、振替前の休日に労働させても、休日に労働させたことになりません。一方で、「代休」は事後的な措置ですので、休日に労働させたという事実は変わりません。
振替休日の割増賃金
「振替休日」を利用した場合の割増賃金について、具体例を用いて確認します。仮に、就業規則等で週の始まりが日曜日、法定休日が日曜日、所定休日が土曜日と定められているとします。
1.同一週で振替休日を取得する場合
日曜日に出勤することになったため、同一週の火曜日に法定休日を振り替えるケースを考えます。この場合、日曜日が所定労働日扱い、火曜日が法定休日扱いとなります。仮に所定労働日がすべて8時間勤務だったとすると、1日8時間・週40時間を超えないため、この週の割増賃金は発生しないことになります。
2.異なる週で振替休日を取得する場合
土曜日に出勤することになったため、翌週火曜日に所定休日を振り替えるケースを考えます。この場合、土曜日が所定労働日扱い、火曜日が所定休日扱いとなります。
仮に所定労働日がすべて8時間勤務だったとすると、4/1の週は週40時間超の労働時間が発生することになりますので、週40時間超の部分について割増賃金の支払いが必要となります。
このように、異なる週で振替休日を利用すると、時間外労働が発生しやすくなる場合がありますので、留意が必要です。
代休の割増賃金
1.同一週で代休を取得する場合
日曜日に出勤することになったため、同一週の火曜日に代休を取得するケースを考えます。この場合、日曜日は法定休日扱い、火曜日は所定労働日扱いのままとなります。
仮に火曜日以外の所定労働日がすべて8時間勤務だったとすると、1日8時間・週40時間超の労働時間は発生しないため、時間外労働割増賃金は発生しないことになります。
一方で、4/3(火)の日は実際に勤務していないことから、ノーワークノーペイの原則によって所定労働時間分の給与を控除することが可能となります。
すなわち、4/1(日)に出勤したことに伴う割増賃金相当額分のみ、対象者への給与支給額が増加することになります。
2.異なる週で代休を取得する場合
土曜日に出勤した後、翌週火曜日に代休を取得するケースを考えます。この場合、土曜日は所定休日扱い、火曜日が所定労働日扱いのままとなります。
仮に翌週火曜日以外の所定労働日がすべて8時間勤務だったとすると、4/1の週において週40時間超の時間外労働が発生します。一方で、4/10(火)の日は実際に勤務していないことから、ノーワークノーペイの原則によって所定労働時間分の給与を控除することが可能となります。
すなわち、4/7(土)に出勤したことに伴う割増賃金相当額分のみ、対象者への給与支給額が増加することになります。
所定休日や法定休日の運用について
休日出勤と36協定
法定休日出勤をさせる場合や、所定休日出勤をさせることで1日8時間・週40時間の労働時間を超える場合には、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、届けなければなりません。
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制を導入している場合、所定休日や法定休日の扱いはどうなるのでしょうか。
フレックスタイム制とは、「1日の労働時間の長さを固定的に定めず、1か月~3か月以内の一定の期間の所定労働時間を定めておき、労働者がその所定労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決めることができる労働時間制度」のことです。そのため、概念上1日ごとには時間外労働は発生しません。
フレックスタイム制では、1か月~3か月以内の一定の期間(1か月とする会社が多いです)の総労働時間で時間外労働の有無を判断することから、所定休日に出勤したとしても、他の所定労働日の労働時間数が少なければ、結果的に時間外労働は発生しないケースもあります。なお、フレックスタイム制であっても、法定休日出勤をした場合には、一定期間の総労働時間数にかかわらず、3割5分の割増賃金の支払いが必要となる点には留意が必要です。
フレックスタイム制については、以下の記事も参照ください。
裁量労働制の場合
裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。法定休日には裁量労働制を適用することはできないため、裁量労働制を適用する場合でも、法定休日に労働があった場合には、実際の労働時間に応じた割増賃金の支払いが必要となります。
なお、所定休日についても裁量労働制を適用しないことが一般的ですが、労使協定の定めにより、裁量労働制を適用することも可能です。
まとめ
休日出勤の社内ルールの定め方
1.休日出勤の事前承認制
休日出勤は時間外労働同様、原則として会社が承認した場合に認める旨、就業規則に規定するのが一般的と考えます。事前承認制である旨を明確にしていないと、本来必要のない時間外労働・休日労働を抑制することが難しくなるためです。
また、黙示に時間外・休日労働を命じていたとされるリスクを減らすためには、事前承認制を形式的に定めておくだけではなく、実態として運用していることが重要となります。
2.振替休日と代休の取得時期
振替休日と代休の取得時期について、これらを取得できるのは「当該休日であった日の属する賃金締切日までに振り替える」とすることが望ましいと考えます。具体例として、給与締日が毎月末日で、1月中に休日出勤があり、これに振替休日や代休の取得を認める場合には、1月中に限りその取得を認めるというような制度設計です。
この理由の1つ目として、振替休日や代休制度の趣旨にあります。これらの制度の趣旨は、本来休みである日に働いてもらった分、休日を取得することで労働者の健康に配慮するものであると考えられます。そのため、休日出勤と振替休日・代休取得日が離れてしまうと、そもそもその趣旨にそぐわない状態となり得ます。
2つ目の理由として、給与計算業務の煩雑さを回避するためです。賃金締切日を跨いで振替休日や代休の取得を認めると、残日数等の管理が必要で、給与計算も複雑になることから、作業のミスを生じさせる原因となり得ます。
休日労働の実態把握
このほか、休日労働の実態把握を適切に行うことが必要です。会社としては休日出勤を許可していないのに、実は従業員や担当上司の個別判断で休日出勤をしていた…というケースはよく耳にします。
未払い残業代等の労務リスクの発生を防ぐためにも、休日労働の実態を適切に把握することは重要です。労働実態を正確に把握するためには、PCログなどの業務をしていたことがわかる客観的記録が必要となります。